秀808の平凡日誌

第参拾壱話 迎撃(前編)


「待て待て!タンマタンマ!!」

 古都に襲撃してきたスウォームとラムサスが戦っている。

 だが戦っているより…逃げているというのが正しい。

「命乞イハ見苦シイゾ!人間!」

 スウォームが力任せに市街地を破壊しながらラムサスに迫ってくる。

 なぜ逃げているのかというと、ラムサスはウィザードでも数多き『チリウィザ』といわれる部類の、接近戦を得意とするウィザードである。

 だがチリウィザには、回避スキルも無ければ盾で防ぐこともできない。故に食らったらお陀仏な破壊力を持つスウォームとまともにやりあうのは分が悪いと判断して逃げているのだ。

 それにラムサスは、遠距離攻撃の強力なスキルを習得していないのだ。

「こんなことなら、ファントムに『メテオシャワー』でも教えてもらっておけばよかったぜ!!」

 だがそんなことを今更思っても遅い。逃げ回るラムサスの前に巨大な城壁が見えてくる。行き止まりということだ。

「嘘だろおい!?」

 城壁にぶつかる寸前で止まり、道はないかと探すがやはり行き止まりであった。

「諦メロ!楽ニ死ナセテヤルゾ!!」

 スウォームが手先の爪を鈍く輝かせながらラムサスに迫る。

 自分は走り回ってしまって、もう『テレポーテーション』を使う力さえ残っていない。

「…ここまでか…」

 ラムサスは自らの死を覚悟し、静かに目を閉じた。




 いつまでたっても自分が引き裂かれた痛みが伝わってこない。どうしたのだろうと思ってあけたラムサスの目に、信じられない光景が飛び込んでくる。

 目の前にいたのはスウォームではなく一人のウルフマンであった。そのウルフマンの前方の民家には穴があけられ、どうやらこのウルフマンが自分を助けてくれたらしい。

「大丈夫ですか?」

 見た目とは似合わない温和な声で、そのウルフマンはラムサスに声をかけた。

「ああ、助かった…あんたの名前は?」

「私はしるべあ。ブラック☆ファミ☆ダンのギルドマスターをしています。以降お見御知りを。」

「ブラック☆ファミ☆ダン…?」

 そのギルドの名前はラムサスも聞いたことがある。確か、かなりの強豪ギルドであると言われているはずだ。

 そのウルフマンの鎧には、ギルド紋章を示す山羊の顔をしたマークと、ギルドマスターであることを示す印が施されていた。

「こいつは私が引き受けます。貴方はほかの人達の援護へ」

「…わかった、ありがとう!」

 そしてラムサスは『フォーベガーチャージング』で魔力を回復させると、『ヘイスト』を自分にかけて足早にその場から走り去った。

 ふと瓦礫の中からスウォームが立ち上がり、呟いた。

「…驚イタゾ…コノ時代ニ俺ヲ吹ッ飛バセル力を持ッテイル奴ガイタトハナ…」

 しるべあは両腕につけた『鉄のクローGDX』を構えながら答える。

「…私達をなめてもらっては困りますよ?」

「ソノヨウダ…今ノハ油断シタガ、今度ハソウハイカンゾ!」

 そして力と力の戦いが今、始まった。


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